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早朝だというのに港は既に喧騒に包まれ、船員たちは出航準備に忙しく働き回っていた。
巷を賑わせた異国の船がいよいよ出港するのだ、人が集まるのは当然だろう。

連れはさっさと船に乗り込んでいたが、私はまだ名残惜しく桟橋に佇んでいた。
決意が揺らいでいた訳ではない。
今は少しでも長く、この地に足を付けていたかったのだ。

乗船を促す鐘が鳴った。

人の波に揉まれながら、私も急いで乗り込む。
ようやく同行の二人の姿を見つけ、ほっと息をついたその時。

『出港準備!』

船長の声が響き渡る。さっと波が引くように乗客の喧騒が静まっていく。

『船務科出航準備良し』
『航海科出港準備良し』
『海兵隊出航準備良し』……

きびきびと上がるクルーたちの声。
ややあって私は、思わず息を止めていた自分に気付く。

『船内警戒閉鎖!』

とくん、とくん…

鼓動が早くなる。
船など今まで何千回となく乗り降りしてきた。初めて見る光景でもない。
だけど、これは戦場に向かう船でも、大陸内を移動する船でもなく――

『出航用意!』
『前部1番もやい放し方用意良し!』
『前部1番もやい放せ!』……

船体が揺れた。祝砲が一つ、鳴り響く。

『手空き総員、上甲板!』

そして船はゆっくりと港を離れ、大海原へと滑り出した。
わぁっ――と群集が、乗客たちが声を上げる。
人波を掻き分け、私も甲板へと駆け上る。
ぎりぎりまで身を乗り出し、見送りの人々の中に見知った顔を必死に捜す。

――いた!
――あぁ、あそこにも、あれは、あの人は、あの子は――

胸が潰れそうな、とはこの思いを置いて他ならない。
千切れそうなほど精一杯に手を振る。

私は泣いていた?
泣いてない。
本当に?
泣いてないったら。
ちゃんと決意してきたんだから。
だったら、何度も目をこすらなければ見えないのは何故?


もう人の姿の見分けが付かなくなるくらい、岸から離れてしまった。
そして人々はようやくロストグラウンドの地を遠望する。

帝都の白亜の威容を。
目を奪うローマスの市場を。
アクオールの珊瑚礁を。
風を育むアンプルマの尾根を。
月下に咲く妖しの桜を。
フェリールの夜の帳と万年氷を。
豊穣の森と木漏れ日を。
砂漠にきらめくオアシスを。
荒ぶる魔獣たちの歌を。

あぁ、こんなにも小さくて美しいロストグラウンド。
終わりのない戦乱を永遠に繰り返す、愚かで愛しい大陸。
良い人も悪い人も、バカな奴もたくさんいたけれど。

この地に勝るとも劣らない素敵なものが、
海の彼方にもありますように。
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