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箒星の行方 - 2 - 2007-08-21 Tue
「あっ、あたしも――」

思わず子供っぽく上擦った声。
さっと頬に朱が走るのを一つ咳払いをして誤魔化した。

「…私も、行きたい」

私は『船に乗りたい』ではなく、『行きたい』と口にした。
おそらくあの船自体と、その技術の出所に強い興味を持っている彼。
それに比べて私の想いは既に長い航海の果て、
その先にある世界、そこに生きる人々に向けられている。

そもそも嵐がなければ漂着しなかったはずの船。
この航海も無事に終わる保証はないというのに。

「カトゥサ、お前は…」

何も言わない隣の男をそっと伺う。
だがその、心此処に在らずといった表情は意志を確認するまでもない風だった。
ビーストアークの統一後出奔した時に顕著であったように、
物や金銭は言うに及ばず、人や土地へも執着の薄い男なのだから。

同時に、今更ながら思い出す。
目の前の2人の男はネバーランドという東の大陸の出身なのだ。
何度か聞いていたが、黒翼の男の実家は其処に在る。
生真面目な兄が家を継ぎ、風来坊の弟は単身、翼騎兵の国を目指して来たのだと。
『いつか兄に紹介する』
冗談交じりにそんな話をした頃が懐かしい。

(この大陸しか知らないのは、私だけか…)

彼ら2人が遠い大陸の思い出話をする時、いつも取り残されたような寂しさを感じた。
重ねられた歴史、戦争、陰謀、王と民、激動の世を生きた人々――
話から伝わるその熱さを、私も肌で感じてみたかった。
羨ましかった。いつも憧れていた。
その渦の中に私もいられたらどんなに良かっただろうと。

船が向かう先にそんな大陸があると思った訳ではない。
けれど、それでも。
待ち受ける何かに、私は焦がれた。


目を上げると鬼面の下の青い眼差しが注がれていた。
問うような、どこか気遣うような。
彼が何を言いたいのかは分かっていた。

「…未練が無いとは言わないよ。この大陸の全てを知り尽くしたと驕る気もない。
 何ら保証の無い危険な旅だってのも承知だ。だけど」

それすら凌駕するこの気持ちは。
この昂ぶりは、押さえ込まれる事を絶対に是としない。

「滅鬼殿、私は世界を見たい。
 あの船を見た時、真っ先にそれを考えた。
 今しかないと思った。
 このチャンスを逃せば、私は一生後悔する」

――

そうして我々は、人員募集に応募しようと内々の取り決めをした。
ナイトメアにしても、根無し草の一仕官者に過ぎない私たちだ。
侵攻も届かない遠くへ旅立つ事に何ら支障はないだろう。

一人は経験や知識も豊富だから、航海士として迎えてもらえそうだ。
もう一人は…あの異邦人たちの中に翼持ちはいなかったし、重宝されるかもしれない。
だが、私は?
困った事に、特に取り柄が無い。
用心棒か…暗闇でもよく目が見えます、とか。


近くまた顔を合わせる約束をし、その晩は別れた。
出港までに残された日数は、あとわずか。
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