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Departures 2007-08-31 Fri
旅立ち

Good-by & Thanks, Lost Ground
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早朝だというのに港は既に喧騒に包まれ、船員たちは出航準備に忙しく働き回っていた。
巷を賑わせた異国の船がいよいよ出港するのだ、人が集まるのは当然だろう。

連れはさっさと船に乗り込んでいたが、私はまだ名残惜しく桟橋に佇んでいた。
決意が揺らいでいた訳ではない。
今は少しでも長く、この地に足を付けていたかったのだ。

乗船を促す鐘が鳴った。


カーテンごしに薄く暁の光が射している。
この窓辺でこうして朝を迎えるのも最後なのだと、感慨に浸らずにいられない。
夜通し友人たちと語らい、旧知を訪ねて回り、夜明け前にようやく眠りについたのだが、不思議と目も意識も清明だった。

身支度をして、二人で簡単な朝食を摂り、鍵を掛けて門を出る。
――鍵は、途中で捨てるつもりだ。

思った通り、カトゥサは手ぶらも同然だった。
腰に下げた酒と父親の形見の刀、申し訳程度の布鞄。
どうせあれにも酒とお気に入りの肴でも入っているのだろう。

「行くか」
「うん」
「忘れ物は無いだろうな」
「多分……あっ!ちょっと待って」


箒星の行方 - 6 - 髪 2007-08-30 Thu
出発前日の午後。
長かった髪をばっさりと切った。

ABt、アニマルビューティーサロン大佐。
そこにバイトする美容師の卵――おそらく私が友人として最も多くの時間を共有したであろう彼女に頼んで。


「渡したいモノがあるのです」

どこか秘密めかした微笑。
差し出された、拳大の宝石。
何かの結晶に見えるそれは、太陽の真紅と月の紫を思わせる輝きを放っていた。


箒星の行方 - 4 - 2007-08-25 Sat
旅慣れた滅鬼殿曰く、財産を換金可能な価値ある物に換えて持って行くべきだ、と。
確かにそれは尤もだ。
だがあまり高価そうなものを荷物に入れていては、何が起こるか分からない。
だから目立たないくらい、最低限にしようと思った。
宝石類は出来るだけ下着や服の裏に縫い付けていこう。

必要なものは滅鬼殿が持っているだろうというある種の他力本願があったとか、なかったとか。

ぴん、と鋭く伸びた一筋の強い線の周りを、
脆く柔らかなものが触れたり離れたりしながら幾つも漂っている――

そんな想いで居城に帰ると、一通の手紙があった。
真夏にもその封蝋はひんやりと氷のように冷たい。
封を切り、中を読んだ。

“お聞きしたい事があります”

2階の自室から窓を開ける。
まだいくらか昼間の熱を孕んだ夜風が吹き抜ける。
眼下に目を移すと、門の側に背を向けて佇む高い影があった。


箒星の行方 - 2 - 2007-08-21 Tue
「あっ、あたしも――」

思わず子供っぽく上擦った声。
さっと頬に朱が走るのを一つ咳払いをして誤魔化した。

「…私も、行きたい」

私は『船に乗りたい』ではなく、『行きたい』と口にした。
おそらくあの船自体と、その技術の出所に強い興味を持っている彼。
それに比べて私の想いは既に長い航海の果て、
その先にある世界、そこに生きる人々に向けられている。

そもそも嵐がなければ漂着しなかったはずの船。
この航海も無事に終わる保証はないというのに。


箒星の行方 - 1 - 2007-08-16 Thu
夏の盛りの、或る日。
ナイトメア領西部諸島の一つ、ドーレジアに一隻の難破船が漂着した。

乗員の大半は人間種の商人と船員。他に聖職者、老いた魔人の魔術師が一人。
積荷は珍しい交易品に美術品、およそ実用的でなさそうな武具。
異国――否、この大陸のものではない、
それは遙かな異大陸の商船だった。


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